第2話ピンクのハートのUSB
2023.01.10 SEASON 1Chapter:
「だから、探してくれよ。ネットアンケートじゃなく生の意見が知りたいんだよ! 大勢に売るためにはまず一人一人に寄り添わないとだめだろ?」
電話口で
僕は愛用のCore i9搭載PC、240Hzのモニターの前で死んだ魚の目をしている。自分の桃源郷を満喫する時間を崩されたくない。
炉輝氏が僕の上官なのはわかってる。上司でもある。けどさあ……。
「時間外勤務」
「会社員としては時間外だけど、俺らの任務は24時間365日だろうがよ」
ごもっとも。
「僕、明日用事あるんだよね……」
「じゃあ今探せばいいだろ! 俺も探すし」
「炉輝氏はどうやって探すんですか」
「今、一回帰ってからまた公園来た。登山用のヘッドライト持ってきた」
「フィジカルだね」
「だから! そうじゃないやり方をお前に頼んでんの! ルロンも今からこっち来てくれるっていうけど、どうせお前は来ないだろ?」
「何をそんな、女性一人に執着して……」
電話を切られた。
僕は、電子音だけになったスマホの画面を見つめながら無駄に大口を開けた。誰にも見られてないときほど表情筋が豊かに動く。
「うう……明日はイベントなんですぞ」
やろうとしていたFPSのゲームを切った。
これからネットに潜り込んだら寝不足になる。ゲームをして寝不足になるのと仕事をして寝不足になるのとではまるで意味が違うんだよ。健康食品会社に勤めている僕が不健康とか笑えんのだが?
「勤勉な僕は上司命令に従います……」
無意味に身につけた高速タイプと宇宙人的瞬間把握能力で、ネットワークの海に急降下ダイブ。
ものの数分で、ひとつの書き込みを見つける。やっぱり僕って有能だな。
会員制のSNS、ミンスタグラムに投稿されていた。”ひすた”というユーザーの壁打ちだった。
『拾ったUSB、中身ゴリゴリの女性向け漫画だったwwwww やば 晒そうかなwww』
投稿時間は2日前の23時。発信地域は、炉輝が言っていた公園とほど近い。
「当たり……炉輝氏フィジカル乙です。公園探しても意味ないよ」
でも面白いからまだ言わんとこ。僕も頑張るから炉輝たちももうちょっとだけ頑張ればいい。
ミンスタグラムは僕とは無縁のSNSなので使ったことはない。
自分の顔写真を撮った。どう見ても30歳間近のくたびれた男だけど、アプリで若い女の子に加工して、さらにアニメ絵に変えて、それをアイコンにしてアカウントを作成した。
我ながらかわいいアイコンですな。
『FF外から突然すみません(><) それわたしの友人のUSBだと思うんです。拾ってくださってありがとうございます。明日必要なので受け取りたいのですが、ご協力していただけないでしょうか?』
『え? もう捨てた』
即レスくれたのはいいけど!
「詰んだ……」
やっぱりゲームやろうかな。