きみとコスモ

STORY

第1話特別企画室の任務

2023.01.10 SEASON 1

 売り出し方という宿題を背負い、クロスバイクにまたがった。
 暗くなりはじめている仕事終わりの雰囲気も好きだ。夕方と夜の間のざわざわした感じ。
 気分転換のためにいつもと違う道を辿った。自転車に乗ってまっすぐな道を駆けるのもいいが、極限までゆっくり車輪をまわして広い公園で緑に触れるのもいい。

 間隔を空けて設置されているベンチに、女の子がいた。あんまりじろじろ見るのはよろしくないと思うけど、見てしまう。
 ヨドンヨルスに寄生されてどんよりして、うつむいて、スマホを触るでもなくぼーっとしているんだから。気になるだろうが。
 自転車から降りて、遠くから見ていた。すると彼女が立ち上がり、蛇行して歩きはじめる。草むらを覗いたりゴミ箱を見つめたり。そうやって公園を3周くらいしているから、奇行者認定していいよな。

「あのー」

 ゴミ箱を漁りはじめそうな彼女の背後に寄っていく。首が折れそうな速度で振り返った女の子は、俺を見て逃げていった。

「あっ、ちょっと待てって。何か探してんのかなって思ったんですけど! つか、もう暗くなるし危ねえぞって忠告したいだけで」

 返事はない。そそくさと出口に向かわれてしまう。そりゃそうか。
 暗く翳りはじめる公園にはあまり人がいないし、街灯は多いけど生い茂る木々のせいで見通しはよくないし。
 2人分の足音が狭まり、ついに俺は彼女を追い越して正面にまわった。

「ストップ! ナンパとかじゃねんだ。なんか力になれることがあればなりたいんだけど。あとできれば生活環境を教えてほしいんだ。不健康そうだから」
「え……そんなに不健康そうですか、私」

 自分で声をかけておいてなんだが、この子はちょっと不用心だと思った。悪意がある男だったらどうすんだよ!
 ご丁寧に足も止めてくれてさ。

「いや、すまん失礼だったな。えーっと」

 身の潔白を言いたくて、名刺を渡した。ちゃんとした社会人だし部長だし、ましてや宇宙人とかじゃないし、というアピールである。

 受け取ってもらい、自然に2人で並んで歩き出す。公園の出口に向かった。

「で、何探してんの?」
「協力してもらうのは申し訳ないな……」
「ギブアンドテイクでどうだ。俺、健康食品会社で働いてて、新商品売れなくて困ってんだわ。不健康そうな人に買ってもらうにはどうしたらいいかなと考えててさ。生活環境とかいろいろ、健康意識とか教えてほしい」
「そのくらい全然いいですよ。でも週末までちょっと忙しいので、そのあとでもいいですか? えっと、私が探してるのは……ハート型のピンク色のUSBメモリ」

「USB? そんなちっさいもの探してたのか」
「ハコって書いたストラップがついてるの。この間ここで友達と1日中喋っていて、そのとき失くしてしまったみたいで……それ、明日必要なんです。もう無理そうですけど」
「ハコ?」
「私の名前です。ペンネームですけど。詩且(しかつ)葉胡(はこ)

 絶対に見つからないだろう、と諦めているように見えた。すごく悲しそうに見えた。
 だから絶対に見つけてあげたいと思う。
 もし万が一見つかったら、の話をすると「明日は晴海のイベントホールにいる」と言われた。東C-11というブースに夕方までいるらしい。

 ヨドンヨルスをざわざわ引き連れる葉胡と別れても、俺はまだ公園に居残った。
 USBメモリを見つければ、あの子が不健康になった原因と、健康に意識が向くとっかかりを知れるかもしれないから。

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