第6話花を咲かすのはきみのため
2023.01.10 SEASON 1Chapter:
だからオレは、その王子との共通点をいくつか見つけてしまった。
あまり地位の高くない母親のもとで生活環境を危ぶまれて。大衆に向ける顔と自我の間で苦しんでいる。
その漫画は、まだはっきりとした完結を迎えていないそうだ。王子が幸せになる終わり方であってほしいと思う。
「ルロンさん、お化粧上手ですね。さすがモデルさん」
「でも衣緒ちゃんもアイメイクすごいですよ。オレはそこまでアイメイクはできないです」
「目だけすごくてもベースが……そもそも肌がきれいであればいいんですよね。ルロンさんはきれいでいいなあ」
「昨日は何を食べました?」
唐突な質問でも、衣緒ちゃんは素直に答えてくれる。本日のためにすこし減量もしていたらしく、昨日は朝ご飯をサラダにしてお昼はなし、夕ご飯はサラダと野菜スープだそうだ。
野菜の内訳もしっかり聞いたら、管理栄養士としてのうずうずが爆発しちゃうよね。
「ビタミンだけはいいと思います。ちゃんと摂れていて偉いです」
「美容にはビタミンですよね!」
「はい。でも衣緒ちゃん、人間の身体は何でできているか知ってます?」
「ほとんどが水ですよね。だから私、水もたくさん飲みます」
「素晴らしい。でも身体をかたちづくってるのは液体じゃなく、たんぱく質です。肌も髪も爪もぜんぶ、たんぱく質をちゃんと摂ってないときれいに生まれ変われないんですよ」
衣緒ちゃんは、自分の手先を見つめていた。きれいに塗ってきたであろうポリッシュは輝いてるよ。けど爪のまわりの皮膚は若干乾燥が目立つかもしれないね。
「たんぱく質……お肉とか? 太りたくないんですよ……」
「お肉だけじゃないです。それに、必要な栄養をちゃんと摂れてこそダイエットだと思いますよ。偏った食事だと、痩せるんじゃなくてやつれてしまう。あ、いいプロテインがあるんですけど、紹介していいですか?」
広場には人が増えてきていた。レイヤーさんもカメコさんも賑わっている。
立ち上がるため、衣緒ちゃんに手を差し出した。受け取ってもらえたので、2人で木陰を離れた。オレの肘のあたりにつかまって歩く、貴族の立ち居振る舞い。
カメコの一人が「いいですか?」と、早速話しかけてくれる。恋仲の姫もどきの顔をうかがうと、彼女は撮影に付き合ってくれるかどうか、オレに問いかける視線を送ってきた。
だからオレは、薔薇を咲かせて花束にして、膝をついて差し出すポーズをとった。