きみとコスモ

STORY

第3話黒赤紫三段レース

2023.01.10 SEASON 1

 冴深の顔の高さに目を合わせていたから気づかなかったけど、彼は小さな女の子を連れていた。冴深のパーカーの裾を引っ張って、早く会場に入ろうと急かしている。

「隠し子ですか?」
「冗談でも笑えない」
「それは失礼」

 他愛ない言葉をかわしながら、オレたちはテレパス信号を送り合った。冴深が脳内に直接語りかけてくるように、少女のリュックにはピンクのハートのストラップが付いている。炉輝に早く教えてあげればよかったのに! って言っても、冴深は冴深で大変だったんだね。
 どうやらオレの謝罪代弁任務はナシになりそう。

 しゃがんだ冴深が少女と目を合わせた。

「僕約束守ったから、このピンクのハートはもらっていい? このおじさんがこれ欲しがってるの」
「いいよ! 変なおじさんだね。でもまだ美殊とは一緒にいてね?」
「それはうん、約束守るよ。でも5分だけ待ってて。ちょっとおじさんとお仕事してくるから」
「御意! 早くね!」

 冴深と2人で人気のない会場裏にすっ飛んだ。歩きながら手から手へUSBメモリを渡すの、闇の取引みたいでドキドキしちゃったな。
 オレは、さっき衣緒ちゃんに教えてもらった漫画の告知画像をスマホ画面に表示した。

「じゃあルロン氏はこれを漫画家さんのスペースに届けてね」
「御意〜冴深はルロンおじさんの服を書き換えて、この漫画の王子にしてね」
「ああ……きっとこの漫画を描いてるのがUSBの持ち主だよ」
「おじさんでも王子似合う? オレ似合うよね?」
「はいはい似合います」

 取引を終えたら冴深はトンボ帰りした。
 オレは鏡で自分を確認してから、呆気に取られている衣緒ちゃんのもとに戻って手を差し出す。王子様みたいに。

 あれっ。楽しい。楽しいな、これ。

「姫、まずは私もお化粧をしたいです。よろしければ姫もお直しをしますか」
「あ、私のキャラは姫じゃないです。ていうか手品すごいですね。衣装どうなってるんですか? とりあえず私のキャラは姫じゃないです!」
「えっ」
「エリザベータはもともと貧民の出で、下女として働いていたところを見初められるんですけど、その相手も実はちゃんとした王子じゃなくて本当の出自は妾の子どもで、子どもが産めないと言われていた正室の王妃に男の子ができてしまって王子としての地位が危ぶまれて闇堕ちして」
「待って待って。ちゃんと聞きますから待ってください」

 木陰に移動して、衣緒ちゃんの話を聞く。オレは、衣緒ちゃんの喋りの邪魔にならないように彼女の頬にブラシを乗せる。
 こっそり特殊能力の「転移」を使用して自宅から化粧道具を召喚したのは不信がられてなさそう。

 さっきのネガティブさが嘘みたい。衣緒ちゃんは、好きな漫画の内容を1から10までオレに説明してくれる。どれだけ魅力的なキャラなのか、って。闇堕ち王子がどういう人か、って。立ち居振る舞いまでレクチャーしてくれた。

 やっぱりさあ、その熱量はすごいよ。ヨドンヨルスを招いてしまうほど努力して衣装をつくったんでしょ?
 きみの「好き」を作者にちゃんと伝えないと。

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