第3話黒赤紫三段レース
2023.01.10 SEASON 1 広場にはどんどん人が増えていく。オレたちは、その端の方でひっそりと向き合った。
彼女は、コスプレイヤーという活動の内容を教えてくれた。好きなキャラクターになりきって自分を着飾り、こういうイベントではカメラマンに撮ってもらったり交流をしたりして、同じ趣味を持つ人と一緒に楽しむのだそうだ。
カメラマンのことはカメコと呼んで、コスプレイヤーはレイヤーと略すんだって。
面白いね。
「名刺もあるんです」
カードを差し出されるので、オレも急いで自分の名刺を出す。社会人としての礼儀だと思っていたのに、笑われてしまった。
「これはレイヤーの活動用です。会社員としての名刺は出さないほうがいいですよ!」
「おっと、失礼……」
仕方ない。なんたってオレはまだ地球人歴一桁年なんだよ。マナーを覚えるのも大変だったから、知らない文化はさらに難しいよ〜。
『悪いけどハコちゃんには自分で謝りな。オレは新たに調査対象を見つけたからゴメンね★』
即座に電話が鳴ったけどサイレントモードで無視しちゃう。人と一緒にいるときに電話に出るのはマナー違反だって教えてくれたのは炉輝じゃんね。
「ほかにもいろんな衣装を着てるんですね。今日はなんのキャラクターなんですか?」
「あ……はい。ある漫画の登場人物です。今日もこのイベントで、その絵描きさん、
というか作家さんが本を売ってますので……」
「それは! その格好で買いに行けば、とても喜んでもらえそうですね」
「どうでしょう。今日はもうこのまま帰ろうかなと思ってます。漫画だけならネット通販もありますし」
「おや。なんででしょう」
衣緒ちゃんはよく喋る子だった。割とおとなしそうで、自信なさげな感じではあるんだけど、一度喋り出すと止まらない。どんどん早口になっていくのが面白い。
彼女の話を要約すると、昨日、アルバイト先の同僚にコスプレ用のアカウントが知れてしまい、冷ややかな言葉をもらったことで気分が落ち込んだ、と。その同僚とはいつも仕事内容でケンカすることもあってもともと気が合わなくて、あとついさっき好きな絵描きさんのムイッターの投稿を見てしまって、そこには衣緒ちゃんとまったく同じキャラクターの格好をしたレイヤーさんが映っていて、添えられていたコメントは「完璧すぎる」っていう賛辞で、ええと要約ができなくなってきたな。
「うん。つまり、自信がなくなっちゃったということですか?」
「もともと自信なんてなかったんです……この衣装だって、私が自作したものだから、
専門のデザイナーさんにお願いしたわけじゃなくて全然拙いですし」
「ええ? 自分でつくったんですか! すごいですよ!」
「お世辞はいいんです……そもそも衣装がすごくても私が着こなせなければ意味ないです」
どうしたものかな。
「うーん。実は私、すこし前までモデル業をしてまして。コスプレに興味が湧きました! 手伝ってくれませんか?」
「えっ? 何を手伝えば……?」
数秒前からオレの視界に細長い個体がいた。普段よりも背筋を伸ばして、会社では
見せない爛々とした目を左右に動かしまくっている、特殊能力持ちの仲間がいたんだから。
「
急に大手を振ってしまったので、衣緒ちゃんが驚いていた。
オレを認識した冴深は「日本語喋ってくれる?」とか言って、ランランの瞳孔をすこし閉じちゃって〜! 反抗期かな?