第5話若葉マークのファン心理
2023.01.10 SEASON 1Chapter:
ネットで多少検索をすると、売り出すグッズの種類を宣伝している動画が出てきた。
イベントで売るグッズとしては結構攻めてる。デカめのカトラリーだらけ……。
「美殊さんは何がほしいのかな……」
「お箸! あとお皿! 美殊ね、ご飯あんまりいっぱい食べられなくていつもママを悲しませちゃうから、それがあればいっぱい食べられるような気がするの」
「なるほどね……大食いはただのエンタメかと思ってたけど、そういう視点もあるんだね」
デキャヘラのブースに近づくと、どう見積もってもこれまでの景観との差が明確となった。女性の方が多かった会場内で、ここだけは男性比率が高い。
おお……圧巻。
「僕、ついてきてよかったね……ここに美殊さん一人では危なすぎる、ってこれかなり
偏見か? いやでも、そうだよね……」
「わーーっ、列すごい! これ全部デキャヘラのファン? すごーいっ!」
僕のつぶやきなど意に介さず、美殊さんは自分も並ぼうと袖を引っ張ってくる。強引に早足にさせられるし中腰になってしまう。歩きづらし。
と、そこに電話の着信音が鳴った。「誰だマナーモードにしてないの」ぼそり愚痴を言う隙もなく、美殊さんが焦って自分のリュックをおろしていた。
スマホの画面を見ても、着信に対応することはない……だと?
「出ないのですか」
「お姉ちゃんだった。メッセージも何個も来てた。気づかなかった」
「おお、姉氏が来たのであれば僕はお役御免だね。え、姉氏は大人だよね?」
「大学生……」
天真爛漫だった美殊さんが、突如として言葉尻を下げる。電話を掛け直す仕草もないし、メッセージを返すそぶりもない。おかしいね。
姉氏とあまり仲良くないのかな。家族のことに口を出すのは嫌だな。でも……。
この無言に耐えられないんすよ。
「ええと……言いにくかったら大丈夫なんですけど、何か問題でも」
「お姉ちゃんがもう会場に着いたって。連れ戻されちゃう」
「急ぎの用があるの?」
「ううん。嫌がらせ」
「いやがらせ」
「そう。わたしの推し活にいつも嫌味言うもん。お姉ちゃん、空手の大会で負けてから意地悪になった」
「う、ううう……個人の仔細は知りえませんが、わからなくもないというか……」
デキャンタヘラクレスのファンは、男性が多い。年齢層も低いとは言えなかった。当人と同じように恰幅のよすぎる人もちらほらしていて、年頃の女子からの支持は得られていない雰囲気だ。
そりゃあ、推し活するにしてももっとほかがあるのでは? と思われる。でも美殊さんはデキャヘラ氏を好きな理由が明確だし……ううううん。
「しかし一応保護者でしょ? 姉氏は成人しているのだから……」
そうしている間に、デキャヘラの売り場の列には人が増えていった。僕たちがいるところは、もう最後尾ではなくなってしまっている。
「味方になってくれないならもういい!」
美殊さんが、スマホをリュックに突っ込んで唐突に走り出した。
あっかんべー、までもらってしまった。僕、女の子には嫌われる宿縁なんだろうな……。