きみとコスモ

STORY

第4話フィジカルスーパーマン!

2023.01.10 SEASON 1

 葉胡が書いているのは、有名なボーカロイド曲の二次創作だそうだ。もともとは作曲者から依頼を受けて、副業としてミュージックビデオにつかうイラストを描いたのだが、それをきっかけにしてどっぷりファンになり、作曲者公認で創作活動をしているらしい。
 だから、漫画を買いに来ている人は葉胡のファンじゃなく、ただ原曲のファンというだけかもしれない、と。

「なるほど? でも葉胡のファンって思ってよくね? 金出して買ってくれてんだから」
「うーんとね。私、普通に会社員やってて、イラストレーターとか漫画とかの活動は趣味なのね。本業にはしないと思う。なんでやってるかって、曲が好きだからなんだよ。そのPのつくる世界が好きで、もっと多くの人に好きになってほしくてやってるのかも。だから私のファンじゃなくていい」
「ピー? よくわかんねえけど謙虚だな」
「謙虚なら本までつくらないんじゃないかな……承認欲求もそれなりにあるんだと思う」
「つーか、会社員やりながら漫画書いて休日はこうやってイベントに出てんなら、そりゃあ不摂生にもなるわ」
「あああ、すみません」

 ダンボールの中の本を手に取り、緻密に描かれている表紙を眺めた。
 葉胡は、これをつくりあげて売るまでのことをひとりでしているってわけか。そもそも「買いたい」と思われるだけのクオリティがあるのは、ひとえに葉胡の頑張りがあるからだろ。

「俺は絵とか描けねえから、こんなにうまくなるまでどーやって努力したんだろーなーと、純粋に不思議だわ。いくらセンスあっても結局は努力だし」
「そう言ってくれると嬉しいです。これが私の趣味なんで、すっごく頑張ってます!」
「趣味……」
「はい! 時間はすごく使いますが、絵も漫画も描くのは大好きです」

「好き」の原動力はすごいな。
 地球に来てから、話題づくりのために有名な人気漫画にはある程度触れてきたつもりだが、あからさまに少女趣味のゴシック系作画のものをこんなに長時間見つめるのははじめてだ。
 1ページ目をめくった。
 これほど丁寧にペンを走らせるほど「好き」なことなら、長く、できるだけずっと、楽しんでほしいと思う。だからこそ、自分を大事にしてくれよ。

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