第4話フィジカルスーパーマン!
2023.01.10 SEASON 1肝心の葉胡は俺の声に驚いてパイプ椅子から転げて、その拍子に椅子が折りたたまれる。
「大丈夫か」
「やっ、えっ? えっ、まさか本当に見つけるとは思わなくて……しかも、ここまで来てくれるなんて。ていうか私は漫画家ではなくて」
「俺じゃなくて同僚が見つけた。中身は見てない。ほら」
せっかく探しものを見つけたというのに、受け取った葉胡はあまり嬉しそうに見えなかった。「ありがとう」とは微笑まれるけど。
俺が思っていた反応と違うからって責めることはできないが、理由くらい聞いてもいいよな。
「今持ってくるんじゃ遅かったか」
「いえ、見つけてくれたことだけで本当にすごいです。びっくりした……そもそも私が失くしたのがいけないんだから、炉輝くんが悪いわけじゃなく……」
「間に合わなかったかあ」
「うんと、この中に入ってるのは漫画のデータなんです。私、こういう端の席にスペースをもらえるのはじめてで。あっ、誕生日席って、お客さんが見込める作家だと認識されているってことなんです」
「おお」
「だから張り切って、売る漫画と別に無料配布の1ページ漫画を描いていて……それがこのデータ。せっかくいい席もらったし、ツイッターで無料配布漫画出すって告知したのに、出せないなんて……来てくれる方を裏切っちゃう」
じゃあ今から印刷すりゃ間に合うじゃん。伝えても、葉胡は無理だ無理だと否定ばっかりする。
このホールから一番近いコンビニは、3キロくらいの場所にあったはず。間に合うぞ。
「もう素直に謝罪するしかないかな。せっかく探してくれたのに、ごめんなさい」
「いや印刷はしてくるけど、無料なんだろ? 謝るほどなのか?」
「無料か無料じゃないかは関係ないの。期待してくれているからこそ足を運んでくれる人もいないわけではないかもしれないし……」
「まあ印刷はしてくるから謝んなくていいぞ。100枚でいいか?」
「100枚あれば十分……えっ?」
「んじゃ、行ってくるわ!」
「えーーっ!?」
USBを今一度受け取った。
もうすこし奥にあるシャッターに向かって人をすり抜けていく。どでかいシャッターの前の長机には、葉胡よりも随分と広いスペースが用意されていた。なるほど、こうやって人気の差で場所が決められてるんだな。ちょっとえぐいと思った。
「すんません、通りまーす」
人気漫画家さんと思われる女の子に訝しげに見られながら、バカでかいシャッターを持ち上げる。
ガシャーン! って分厚いアルミの爆音が聞こえる前に外に出た。もう俺の耳には音速なんて届かない。
幸いにも、コンビニのコピー機に先客はいなかった。しかし操作に手こずる。慣れないコピー機で他人のデータをいじるのはうまくいかねえな。
無意識にスニーカーのかかとを鳴らしてしまう。早く、早く。