第6話花を咲かすのはきみのため
2023.01.10 SEASON 1 「こんなにカメラに囲まれるのはじめて!」
「私もさすがにこんなにレンズが多いのははじめてですね。駆け出しのころに美術モデルをやったときくらい囲まれてます」
「美術モデルって……脱ぎます?」
「ふふ。それは脱がないやつでしたねえ」
衣緒ちゃんの自然の笑いに、シャッター音が集まった。
オレも調子に乗って挑発的な笑顔をつくりはじめたとき、カメコを押し退けて、女性が前線に出てくる。その女性の手には、先ほど冴深が連れていた少女の腕が握られていた。
えー、なになに、どういうこと?
「ウケる、衣緒だ! ゴスロリやってんじゃん!」
指をさして、笑われた。
衣緒ちゃんは咄嗟に顔を隠して下を向いてしまうし。嫌な偶然は重ならなくていいのにな。
「バイト先の人ですか?」衣緒ちゃんに聞くと、小さく頷きが返ってきた。
カメコの男性たちが、嘲笑っている女性へ迷惑そうな目線を送っている。厳密に言えばゴスロリじゃあない、という呟きが聞こえたような。
「えー、あたしにも撮らせてよ。バイトのグループに載せるから」
お姉ちゃんやめなよ! 少女の大声があり、姉妹は口喧嘩をはじめる。関わるのが面倒と察したのか、カメコたちは離れていってしまう。
そこに冴深が走り込んで来たものだから、オレはどうしたらいいのか。
「びっ、美殊さん! グッズ買いに行かないと売り切れちゃいます! あ、あ、美殊さんの姉氏、す、すみませんが帰るのはもう少しあとに……」
「あ、ママが言ってた付き添いの人? でももうタイムオーバーでーす!」
「ひ、ひ、人の好きなものを奪わないでほしいです! 悪いことしてるわけじゃないんだから、何を好きになろうと勝手では……ないでしょうか。僕、母上に夕方くらいまで任務をもらってる、から……美殊さんの買い物も任務のうちだから……」
「オタクこわ」
彼女はけらけら笑って、冴深の言葉を聞こうとしない。
うーん、これはなかなか難しい派閥問題なのかな? 何を言ってあげればいいのかわからなかった。
さっきまでは衣緒ちゃんの熱量を浴びていたのに。「好き」の原動力を知っているのに、オレは役に立てないのかな。
妹ちゃんが、ギャルお姉さんの手を振り払って叫び出した。
「じゃあお姉ちゃんが好きな男の人のこと、美殊も晒す! バイト先の田中が好きなんでしょ! それ言いふらしちゃうんだから! なんで田中のこと好きなのかマジでわかんな〜い、って言いながらバイト先で言いふらすからね」
オレの隣で、衣緒ちゃんが顔を上げる。
顔を真っ赤にしたお姉さんは、妹さんに般若のような剥き出しの歯を向けた。
わわわ、女の子のガチ喧嘩は見たくないよ〜。
「恋をしているから、お姉さんはそんなにきれいなんですね。いいじゃないですか。恥じることはないと思いますよ。でも言いふらされるのは困りますよね」
はじめてオレの存在を認識してくれたらしい。お姉さんと目が合った。ここぞ! 今がここぞというときだと思った。
少女漫画の王子よろしく微笑んで、花を背負う。
「せっかく楽しい場なんです。妹さんが買い物をしている間、よければ一緒に楽しみませんか?」
オレはお姉さんにも手を差し伸べる。その背景で、冴深が「うえっ」と舌を出していた。うるさ〜い!
冴深も協力して。もう一度能力使ってよね。と、テレパス信号を送った。
「私も本日はじめてコスプレをしました。いつもと違う格好をするのは楽しいですよ! きっとお似合いになる」
お姉さんは、衣緒ちゃんの衣装をまじまじと見つめてから「もっとスカート短いのでよろ」と言った。