第5話若葉マークのファン心理
2023.01.10 SEASON 1 僕は嫌われても仕方ないけど! でもこの会場で美殊さんを一人にさせるのはだめ!
美殊さんは体格の小ささを利用して人をすり抜けて行ってしまう。それを追う僕は、少女を追いかける不審者に見えなくもない。
「あああ、僕本当に捕まっちゃうかも……」
販売開始のアナウンスが流れた。そこらじゅうで、列がざわざわ動きはじめる。
僕のお目当てのゲーム生配信まで、あと30分だ。予定ではそのブースに行く前に自分のほしいものを手に入れるはずだった。
時計と睨めっこしながら美殊さんを追い続ける。配信が行われるステージで、前座のトークがはじまっているのも素通りした。
すでに、美殊さんの姿は視認できていない。なんとなくの勘で足を進めるも、キョロキョロと見渡すばかりで、もうどこに向かえばいいのかわからないよ。
「どうしよう……あああ、どうしよう。SF漫画も売り切れてしまうかもしれない……」
探しまわっていたら、入口にたどり着いてしまった。今や出口と呼べるそこから、外で輝くコスプレイヤーたちの撮影会が目に入る。
外は眩しいな……ていう室内外の差による桿体細胞のはたらきとかそういうんじゃなく、本当に光っていた。
何あれ? 地球の粒子じゃない。研究したい! ど、どうにかして集めたい!
「やることが……やることが多い」
コスプレイヤーの中に、王子に扮したルロンを見つけた。姫のような女性とポーズをとっちゃってさ。
カメラマンに囲まれているルロンに目を奪われていると、その彼を取り巻く人からやや外れたところに、美殊さんを見つける。
「おお、濡れ手で粟……いや神機妙算」
でも美殊さんは姉と思しき女性に腕をがっちり掴まれ、暴れていた。
どうあがいても仲良しな姉妹とは表現できない感じ。
「離してよー! まだグッズ買ってないんだってば!」
「そんなんに金使うとかまじで無駄すぎる。迎えに来てあげたんだから感謝しなよ!
帰るよ!」
姉氏は、どっぷりヨドンヨルスに寄生されていた。うら若き美殊さんはきっと、その粒子を毎日浴びてしまっていたのだろうと予想できる。
「はあ……難儀だなぁ」