第3話黒赤紫三段レース
2023.01.10 SEASON 1「お嬢さん。素敵なお洋服ですね。お似合いですよ」
声をかけると、貴族女子が纏うヨドンヨルスがうねる。顔をあげた彼女は、コンシーラーで隠しきれないクマで彩られていた。
もったいない! こんなにかわいいのに!
でも化粧が下手だとかクマがあるとかを言うのは失礼極まりないよねえ。うずうずしていたら、数回周囲をキョロキョロ見渡した彼女が、自分自身を指差していた。
「あ、わ、私ですか?」
「はい。私、こういうイベントに来るのがはじめてなんです。みなさんお写真を撮ってますが……素敵だなと思ったら一緒に撮ってもらえるのですか?」
「もちろんです! 嬉しいです!」
カメラを首から下げている男性を呼び止めて、スマホを渡して撮ってもらった。するとそのカメラマンは、自分の一眼レフでも撮らせてくれと言って人差し指をあげる。
オレが彼女から離れようとすると「いや、ご一緒に」だって!
それなら。
能力を手品のようにつかって見せた。自在に花を咲かせられるロマンチックさ、
オレらしくて大好き。
真っ赤な薔薇の束をレディの手に握らせ……ない。美しい花には棘があるからね。
オレが持って、彼女の手を添えるよ。
「あ……っ!? えっ、すごい! パフォーマーの方ですか?」
「ええ。それより、私もあなたに合わせた衣装があればよかったですねえ」
カメラマンが去ってから、彼女は引き攣った笑いを浮かべる。
「今の感じですと……主役は私ではないように思いますよ」