第7話推し活は心のビタミン剤
2023.01.10 SEASON 1 「おっはよーーっ!」
「わっ、朝から元気すぎる……」
「炉輝、おはよ〜。どうしたの」
月曜日の朝に、俺は特別企画室でひとつの提案をする。日曜日をまるっと使って考えた案なんだ。
「じゃん!」
ボスン、と一体のぬいぐるみをデスクに乗せた。
俺らが勤める会社のマスコットキャラクター「犬こう」の、等身大50センチの布製である。これは数年前に作成されたキャラクターで、何かのキャンペーンにてぬいぐるみを販売したが、残りが地下倉庫に眠っていたのだ。
朝から地下に漁りにいって、顔つきがよかったものをもらってきた。
「犬こうくんですね」と、ルロン。
「すこ犬ひさしぶり〜。で、何?」と、冴深。すこやかな犬、という意味ですこ犬らしい。
「こいつをAIにして、テレパス信号の距離制約を失くす媒介にしたい」
そこで輝くのは、物質の書き換え能力とプログラミング知識を持つ冴深である。
けど意外にも、冴深は唇を尖らせた。一番喜んでくれると思ったのに。なんだよ。
「いや……僕はやらないよ。AIって苦手なんだ。なんか不条理で……好きじゃない」
「でもテレパシーの距離は広げたいだろ?」
「いや全然。どこにいても炉輝氏からの司令が来るのはしんどいよ?」
「でも母星へのテレパシー送信機能もつけりゃ無敵だぞ? 今は高台に行かないと俺らからの信号は送れねえじゃん。一方的に司令に喋られるのうぜえじゃん。ていうのもあるし、司令からの言葉もこいつが変換して喋ってくれる方が楽だろ。宇宙の司令からのテレパシーは頭痛くなるじゃんよぉ」
「……うううう。いや、うーん。じゃあ、AIとしての最低限のことは入れるけど学習はそんなにさせないでほしい。ぬいぐるみはぬいぐるみ。知性はあっても感情を持たせない」
「かわいそうじゃね」
「どっちが」
ぬいぐるみを無造作に掴んだ冴深は、キュルンとした黒目に見つめられている。もふもふの触感には癒されたのか、眉間のあたりを撫でていた。ほら、かわいいだろ? かわいいだろ?
ルロンが、部屋にカスミソウを咲かせてくれた。
「まあまあ。とりあえず運用してみてからでいいんじゃない? オレは、ぬいぐるみは無機物だって認識してるよ。AIはAI。生命体じゃないでしょ」
「それなら……まあ」
冴深がぶつぶつ言いながらもまじめに作業をしている間に、俺とルロンは通常業務に取り掛かる。
そしたらなんと。パソコン画面には、いつもは見えない売上の伸び線があった。