第7話推し活は心のビタミン剤
2023.01.10 SEASON 1葉胡のブースの片付けを手伝った俺は、やっとタイミングを見つけて本題に入る。
「手動かしながらでいいんだが。普段の生活習慣とか詳しく聞いてもいいか」
「もちろんです。でもまず炉輝くんが売りたい商品を教えてください。買います! 1万円分くらい。あ、結構高いですか?」
「いや。一袋でいいよ。そんでもしいいなと思えば買えばいいし、メリットを見つけられないならそんなに買わんでいい」
「売りたいんじゃないんですか?」
「強制されて買うもんじゃねえと思ってる。俺は、自分の意思で金を出すってのも健康意識のうちのひとつだと思う。継続は意識がなけりゃできねえから、無駄に買うだけじゃ意味ねえかな、と」
「ううん……?」
閉場のアナウンスが流れた。関係者としての証明を持っていない俺たちは会場を出ていくしかない。ヨドンヨルス調査も打ち切り。
夕方の色に乗って、情緒ある潮風の匂いがした。みっつの影がぼんやり長く伸びて、人間っぽくないかたちを模していた。
「明日もこのイベントあるんだってよ。冴深はまた来るのか?」
「僕は今日で目的を終えたから。明日は戦利品を愛でる日だよ」
「オレも明日は休むけど、また今度コスプレしたいかも〜。楽しかった! あっ、あとなんかキラキラした新型粒子を見つけた」
「おっ、そうだ。俺も見た。あれなんだろ」
「僕、身体にそれ取り込んだから研究するよ……なんかいい物質のような気がするんだよね」
冴深のパーカーはコスプレ衣装に変わってしまったため、半袖のシャツのみの姿になっている。寒いから服を貸せと言ってくるけど、そのへんの落ち葉を集めて変化させて着りゃいいだろ。でも冴深は「生態系の破壊」と言ってそれはしない。
俺たちは、ヨドンヨルスの侵略状況について身をもって知ってしまったため、やっぱりどうやって売り上げを高めようかの相談ばっかりした。